アイアンキングダムの歴史
諸君、ようこそ。
私はリッカード・オースティン教授(Professor Rikkard Austine)。この講義は「歴史学概論」である。
なお、「特別植物学入門」を履修していた諸君には残念なお知らせだが、あちらの講義はフィッシャー館318号室へ変更となった。
さて、この教室へ来たということは、諸君はイモレン(Immoren)史の入門講義を受講するために集まったのだろう。
まずは静粛に願いたい。我々は、現在確認できる最古の歴史記録から学び始める。
しかし、歴史上の出来事は決して孤立して存在するものではない。本講義では、一つの災厄が何世紀も後の国家をどう変えたのか、あるいは一人の王や女王の死がいかにして幾世代にもわたる歴史の流れを変えたのかを見ていく。
アイアンキングダムの運命は、多くの君主たちの宮廷で決まったものだと思う者もいるだろう。
だが、その考えには疑問を持ってほしい。
多くの場合、国家の命運は偶然という名の賽の目によって左右される。ある戦場で放たれた一発の弾丸が、世界を変える連鎖の最初の一撃となることもあるのだ。
前置きはこのくらいにしておこう。
教科書5ページを開いてくれ。講義を始めよう。

何世紀にもわたる戦争、揺るぎない信仰、そして神々そのものの行いが、今日我々がアイアンキングダムと呼ぶ土地を形作ってきた。
この国々には、自らの故郷の大地と切り離すことのできない文化と誇りを持つ人々が暮らしている。
彼らは疫病や飢饉、戦争、侵略、さらには魂を刈り取る〈インファーナル〉の恐怖を生き延びてきた。
それでも、この諸国の民、そして周囲の荒野に住む者たちは、自分たちにとって最大の試練は、まだこれから訪れるかもしれないことを知っている。
インファーナルから逃れるため、神々の宮廷(Divine Court) の神々は世界の橋(Bridge of Worlds) を渡り、自らが創造した者たちとともに暮らすためケイン(Caen)へと移り住んだ。しかし彼らがケインへ姿を現したことで橋は崩壊し、その後に通路は閉ざされてしまった。
崩壊の原因は今なお不明である。しかし、この世界の橋の崩壊は、イオス人が**大破局(Cataclysm)と呼ぶ未曾有の災厄を引き起こした。それは彼らの栄華を誇った帝国を滅ぼし、世界に巨大な傷跡を刻み込んだ。その傷は後にストームランド(Stormlands)**と呼ばれる荒廃した大地となり、何世紀を経た今なお激しい風と雷に苛まれている。
神々の宮廷はしばらくの間エルフと共に暮らし、やがて森の国**イオス(Ios)**を築いた。
しかし、故郷である**アーケイン(Urcaen)**とのつながりを断たれた神々は次第に衰弱し、BR840年、ついに民の前から姿を消した。
それからほぼ700年後、イオスで恐るべき出来事が起こる。
神々を失った神官たちは一夜にして狂気へと堕ちた。自ら命を絶つ者もいれば、自らの目をえぐり抜く者、あるいは同胞に対して筆舌に尽くし難い蛮行に及ぶ者もいた。
この惨劇は**裂離(The Rivening)**として知られている。
現在では、神々の宮廷に降りかかった何らかの災厄が原因だったと考えられている。数多くいた神々のうち生き残ったのは**スシラー(Scyrah)とニシュール(Nyssor)**の二柱のみであり、そのどちらも当時何が起きたのかを語れる状態ではなかった。
もっとも、この出来事の詳細はイオス国外ではほとんど知られていない。イオス人は古くから閉鎖的で秘密主義の民であり、自らの栄光も悲劇も外部へ語ることを好まなかったからである。
**ルール(Rhul)**のドワーフたちには、彼ら独自の創世神話が伝えられている。
彼らは、自らを**偉大なる父祖(Great Fathers)の子孫であると信じている。偉大なる父祖とは、神たる山ゴール(Ghor)**によって生きた石から刻み出された最初のドワーフたちである。
本来、彼らはゴールに仕える奴隷として創られた。しかし十三人の父祖たちは知恵と技によって創造主を欺き、ついには打ち倒した。
ゴールの束縛から解放された彼らは、**エイヤーズ川(Ayers River)の肥沃な大地に最初のドワーフの母系氏族であるクレイワイヴズ(Claywives)**を築き上げた。
今日のルールの民は、少なくとも彼ら自身の伝承では、すべてこの最初の祖先たちの血を受け継いでいる。
メノス(Menoth)を信仰する人類が、後に**千都市時代(Thousand Cities Era)**と呼ばれる時代に世界へ秩序をもたらし、城壁都市や国家を築いていく中で、新たな神々が人々の中から現れた。
最初に現れたのは双子神、**モロー(Morrow)とタマー(Thamar)**である。
人間の両親から生まれた二人は、既存の教えにとらわれない革新的な思想家であり、その教えは新たな宗教を生み出し、何世紀にもわたって続いてきた伝統を揺るがした。
双子ではあったが、その思想は大きく異なっていた。
モローは、人の生きる目的を慈愛、慈悲、そして自己犠牲に見出した。メノスの法への盲目的な服従ではなく、自らの意思による善を説いたのである。
一方、タマーの教えはさらに急進的だった。
彼女は知識を得ることによって力を手にし、他者を犠牲にしてでも個人の悟りを追求することを重視した。
やがて二人の思想の違いは対立へと発展し、ついには死闘となる。
最後にタマーは、カスピア(Caspia)の城壁で神秘の光を放ちながらモローを討ち果たした。
激怒したモローの信徒たちはタマーの身体を八つ裂きにした。
しかし二柱は死後ともに神格へと昇り、その著作と教えは**『エンキリディオン(Enkheiridion)』**としてまとめられた。
この書はモロー信仰の聖典となり、同時にタマー信徒にとっても重要な経典となっている。
神への反逆者たち(The Defiers)
モロー(Morrow)とタマー(Thamar)は神へと昇った最初の人間であった。しかし、メノス(Menoth)の意思に逆らった最初の者たちではない。
はるか以前、わずかな人間たちが人類の内に宿る神性の火花を見出していた。
彼らは法の神(Lawgiver)メノスの教えを、この世だけでなく死後までも続く隷属であると考え、その支配を拒んだ。
その背信の罪により、彼らは凄惨な罰を受ける。
創造主メノスが決して脱出できないと信じた**アーケイン(Urcaen)**の地獄へ、生きたまま投げ込まれたのである。
彼らの本当の名は歴史から失われた。
しかし今日では、**「反逆者たち(The Defiers)」**として語り継がれている。その意志はあまりにも強大で、世界そのものを己の望むままにねじ曲げることさえできると伝えられている。
人間も神になれることを示したことで、双子は数え切れないほど多くの人々に、法の神メノス以外の信仰という新たな道を示した。
その結果、激しい宗教的対立が生まれ、多くの人々がメノス教の審問官によって火刑に処された。
しかし、それは彼らの物語の終わりではなかった。
双子の神格化はケイン(Caen)の政治、社会、宗教に大きな影響を与えたが、それ以上の激変が間もなく訪れることになる。
BR600年、未知なる西方から**オルゴス(Orgoth)**の巨大な黒い艦隊が西イモレンへ来襲した。
数百年のうちに、オルゴスは大陸のほとんどの王国を征服してしまう。
オルゴスは恐るべき魔術を操り、千都市時代の人類は彼らに対抗する術をほとんど持たなかった。
侵略者は無数の命を奪い、さらに多くの人々を奴隷とした。
やがて西イモレンのほぼ全域が彼らの暗黒支配に屈する。
すべての希望が失われたかに思われたその時、タマーは人類へ**魔法の賜物(Gift of Magic)**をもたらした。
単に**「賜物(Gift)」**とも呼ばれるこの力は、人類に魔術が広まる始まりとなった。
当初、人々はこの力を恐れ迷信視したが、やがてそれは人々を団結させ、オルゴスへ反撃する力となっていく。
しかし、その賜物には大きな代償があった。
タマーが計画を兄モローへ打ち明けると、モローは未来を見通した。
オルゴスの支配から自らの信徒を救う道は一つしかないと悟った彼は、妹の決断を受け入れる。
人類を救うため、タマーはインファーナル(Infernals)──外なる深淵(Outer Abyss)に棲む異界の存在──と契約を結んだ。
神々にも匹敵する力を持つ彼らの中には、人類を助ける代わりに契約を受け入れる者もいた。
インファーナルは一枚岩ではなく、互いに争う複数の勢力によって成り立っていた。
タマーは、オルゴスが崇める邪神たちこそ彼らであると知り、その敵対勢力である**ノノクリオン教団(Order of Nonokrion)**へ協力を求めた。
彼女はついに彼らから魔法の賜物を勝ち取ることに成功する。
しかし、その代価は計り知れないものだった。
数世紀の後、彼らは契約の報酬を受け取りに戻ってくる。
その出来事こそ、後に世界が**「クライミング(The Claiming)」**と呼ぶ終末の災厄である。
西イモレンの都市や町で最も広く信仰されている神々は以上である。しかし、神格を持つ存在は彼らだけではない。
**ドラゴンファーザー(Dragonfather)と呼ばれるトルーク(Toruk)**は、**シャード諸島(Scharde Islands)**の住民から神として崇められている。
また、彼の子であるドラゴンたちも、その近くで生きるしかない人々から畏敬の対象となっている。
世界各地の湿地では、ゲイターマン(Gatormen)やボグ・トログ(Bog Trogs)が、新たに神となったバーナバス(Barnabas)、そして**コスク(Kossk)とアシガ(Ashiga)**を崇拝している。
後者二柱は、**デヴァウアラー・ワーム(Devourer Wurm)**の化身であると信じる者もいる。
近年では、旧**魔術師団(Order of Wizardry)**の天文学者が、それまで知られていなかった新たな天体を発見した。
それがシリス(Cyriss)、すなわち時計仕掛けの女神である。
彼女は天文学、数学、工学の守護神として広く信仰されている。
かつて**シリス教団(Cult of Cyriss)**は秘密結社として活動し、最奥の信徒たちは肉体を時計仕掛けの機械へと置き換えていた。
しかしクライミング以後、その信仰はアイアンキングダム各地へ広まり、かつて地下組織だった教団も公然と活動するようになった。
ドラゴンファーザーとケインのドラゴンの起源
(The Dragonfather and the Origin of Caen's Dragons)
ケインに存在するあらゆる存在の中でも、**トルーク(Toruk)**はとりわけ異質な存在である。
彼は全能に近い力を持つドラゴンであり、その存在だけで周囲数マイルにわたる土地を腐敗させる。
この世界のいかなる定命の力も彼に抗うことはできない。
事実上、彼は神そのものであり、**クリクス(Cryx)**を根城としている。クリクスはシャード諸島最大の島である。
そこへ辿り着いて以来、トルークはアンデッドの軍勢、狂信的な忠臣、そして数千年を生きる古き存在たちを従えている。
トルークの巨大な肉体は恐ろしく威容に満ちているが、それは彼の本質ではない。
彼の真なる存在は**アサンク(Athanc)**と呼ばれる、純粋で混沌とした魔力の結晶に宿っている。
アサンクの欠片ひとつでさえ、神にも匹敵する力を持つ存在を生み出せるほどの力を秘めている。
数世紀前、トルークは自らのアサンクを削り取り、新たな生命を生み出した。
こうしてドラゴンたちは誕生した。
彼らはそれぞれトルークの精神の一部を受け継ぎながらも、等しくその狡猾さ、野心、そして支配欲を受け継いでいた。
やがてその姿は自らを映す鏡となり、トルークは自らの選択を後悔する。
創造物への誇りは嫌悪へと変わり、彼は世界中へ散らばったアサンクの欠片を取り戻すため、己の子らを狩り始めた。
こうしてドラゴンファーザーとその子らとの戦争が始まる。
滅亡か協力かの選択を迫られた若きドラゴンたちは互いの争いをやめ、創造主へ立ち向かうため同盟を結んだ。
一体一体ではトルークに遠く及ばないものの、その結束した力はドラゴンファーザーに匹敵するほどであった。
その後、何体かのドラゴンは別の理由で命を落とした。
それでも、この同盟は数世紀にわたり、父であるトルークに喰らい尽くされることなく生き延びている。



